【前置き】
本題に入る前に、中日両国語の語義面の違いに少し触れてみたい。
日本語の「豊か」に当てはまる中国語といえば、“丰富 fēng-fù”を思い浮かべる人は多いでしょう。
でも、話はそれだけでは終わらない。
まず気になるのは「豊か」の語義は範囲が広く、「豊かな資源/経験/精神/暮らし/国/森…」などと使えますが、
“丰富 fēng-fù”はどうであろうか、という点です。
では、まず次のフレーズをみてみましょう。
★「豊かな森・雨量・果実」 VS. “丰茂的森林/丰沛的雨水/丰硕的成果”
一般的に、「豊かな経験」は“丰富的经验”、「豊かな森」は“丰茂的森林”、「豊かな雨量」は“丰沛的雨水”、
豊かな果実は“丰硕的果实”に相当する。
同じ「豊か(=“丰 fēng”)」でも、森林なら“丰茂”、経験・資源なら“丰富”、雨量なら“丰沛”、
果実なら“丰硕”などとキメ細かく使い分ける点に特徴があります。
ひと口に「豊か」といっても、事物によってその態様や中身は異なるものです。
その微妙な違いを中国語はそれぞれもう一字の形容詞 “富 fù”、“茂 mào”、“沛 pèi”、“硕 shuò”の助けを借りて、
豊かさをイメージ豊かに表現するわけです。
つまり、それぞれに「富んでいる」、「茂っている」、「沛然たる(大雨が降る様子)」、
「碩たる(果実が大きくて中身が詰まっているさま/比喩的に学識が広く深い)」の意味が加わり、
「豊かさ」の態様や内実を的確に具体化しています。
そこはまさに漢字に秘められた「漢字力」の凄さが遺憾なく発揮されています。
それと同時に、これらの形容詞“丰富”、“丰茂”、“丰沛”、“丰硕”を述語にした主述フレーズ──
“经验丰富”、*“森林丰茂”、“雨水丰沛”、“果实丰硕/成果丰硕”などの仕組みにも慣れておく必要があります。
こうした四字熟語は物事を多面的に描写したり、説明したりするときに役立つからです。
例えば、“祝你新年快乐,家庭美满,工作顺利” 等々。(*“森林茂密”もよく聞かれる言い方)
前掲の形容詞“丰〇”グループに対して、名詞のジャンルにおいても、似たような現象が見られます。
その一例が“功劳”、“苦劳”、“疲劳”などの「〇劳」グループ*です。
努力が報われて功績を上げた場合は“功劳”であるのに対して、目標に向かって辛抱強く努力するプロセスは“苦劳”で、
これはまだ結果を出す前の段階の話。これに対して、心身が消耗して疲れた状態が“疲劳”です。
ただ、言葉のスケールとして、“疲劳”は“功劳”や“苦劳”に比べて格段に小さくなっています。
なぜならば、“疲劳”は辛抱強く努力したかどうかや、成果は上がったのかどうか、
これらすべてが不問に付されており、話が単に「仕事後の体力減退・体調不良」のみに絞り込まれているからです。
*このほか、動詞では“耐劳 nàiláo”、“操劳 cāoláo”、“辛劳 xīnláo”、“效劳 xiàoláo”などの
類義語グループなどがあります。
▲丰盛的晚餐 / 御馳走たっぷりの晩餐 / fēngshèng de wăncān
▲丰满的体态 / 豊満な体型 / fēngmăn de tĭtài
▲丰厚的收入 / 豊かな収入・高収入 / fēnghòu de shōurù
▲丰润的皮肤 / 豊潤な肌・潤ったふっくら肌 / fēngrùn de pífū
(つづく 鄭青榮)