-中国語あれこれ
--鄭老師の漫談--
(52)中国語会話 中級プレミアム・レッスン
【 詫び言/後悔・自責の表現 】
我没脸做人。/我惯坏了她的脾气。/我认输了,听你的。
みなさんは初級の早い段階で“对不起(申し訳ない)”、“不好意思(恥ずかしい/お恥ずかしい次第です)”を習っていると思いますが、そのもう一歩先のことをお話いたします。

“没脸做人”は「個人の存立危機事態」?
対人関係において、礼を失したり、欠いたりしたときに相手に詫びる言葉や、後悔・自責の心情を表現するフレーズは、下記の例文でも分かるように、じつに多種多彩。なかでも
“没脸见人”/「ひと様に合わせる顔がない」が際立っています。さらにその上を行くのが“没脸做人”です。
なぜならば、
“没脸见人”にはまだ逃げ道があります。つまり、一時しのぎに人と会わなければなんとか済む方法が残されていますが、“没脸做人”の方はそれも許されないからです。メンツを重んじる中国人社会において、“没脸做人”はまさにその人の「存立危機事態」に相当するといえましょう。

これらの言葉は儒教の教え“
知耻zhī-chǐ;恥を知る/羞恥心”から生まれた言い回しと考えられますが、中国人社会の日常生活においてもよく使われるので、少し取り上げてみたい。

まず前に述べた
“做人”は中身の濃い言葉です。辞書には「人として世に処してゆく/人と協調してやって行く/身を正しく持する」と出ています。要するに、処世態度として「自分の社会的立場をきちんと守る」、或いは「人間らしく生きる」と言えるでしょう。

“人”という文字は、シンプルな形をしていますが、「人柄・人品」など全部で10種類もの意味用法を持っています。それが動詞“做人”になると、前記のように処世態度と直結して、一段と奥深い意味が加わります。結局“没脸做人”は「恥ずかしくて人間としてやってゆけない」、「人倫・道義に著しく違背していて、もはや人間廃業するしかない」という強烈な意味を表しています。これは社会的存在としての人間の本質を問い、人間の本性を突く言い方として注目したいところです。

さて、
“对不起”に話を戻します。“对不起”、つまり“我对不起你”は直訳すると、「私はあなたの前で自分の体を起こすことができない」となります。つまり、負い目があるので「腰を曲げ、頭を垂れた状態でしかあなたと向き合えない」というわけです。これはつまり「相手に顔向けできない心情」や、「相手の前で平身低頭して恐れ入る姿」を表しています。したがって“对不起”は「ひたすら謝る」と意訳でき、重い謝罪を表しています。ただ、謙譲語として用いる場合は、意味が弱まって「済まないと思う」、さらに人に依頼するときの「すみませんが、…」としても使われるようになっています。

一方、日本語の「申し訳ない」はどうか。これは「自分の立場について相手に理由を説明できない」、「自分の取った行動について相手を納得させる理由がない」、つまり「自分のしたことは弁解しようがない」という意味なので、焦点は相手への理由説明が成り立つかどうかや、言い分の有無に置かれています。結局、「弁解できないようなことをしたので謝罪する」と解釈できます。こうしてみると、  
“对不起”と「申し訳ない」はともに謝罪語ですが、両者の発想の違いは非常に大きいことが分かります。

ちなみに日本の新聞を読んでいると、一部の政治家や官僚が好んで使うあるフレーズが目に付く。それは「国民の理解を求めて丁寧に説明してゆく」という表現です。このフレーズを分析すると、「おのれの政策に対して国民が理解不足ないし無理解なのは、説明の仕方に丁寧さが欠けているためだ」との考えがその基調になっていることが分かります。しかし、これでは問題の本質を取り違えていると思います。なぜならば、政策を国民に売り込む理由の正否自体が問われているからです。政策を実現させるに当って、職業的政治家が国民を納得させる理由を上手に説明できなければ、それは「申し訳」ない事態に陥ったことになるのではないか、と思います。さて、余談もここまでにして次に移ります。

失礼・欠礼を詫びる表現

1. 对不起,我失陪了。
2. 我失迎了,不好意思。
3. 我不请自到,打扰了。
4. 我惊动你了,不好意思。
5. 对不起,我打断了你的话。
6. 我不该问这些,对不起。

★語注;
失陪 shī-péi;動詞/挨拶語・お先に失礼します(付き添うことができないこと、席をはずすことを詫びる言葉)お相手することができなくて、すみません。 ●失迎 shī-yíng;動詞/挨拶語・お出迎え致しませんで、失礼致しました”関連語句“ 恕我不远送 shù wǒ bù yuǎn-sòng( 遠くまでお見送り致しませんで、失礼をお許しください)” ●不请自到 bù qǐng zì dào;動詞句・招かれていないのに自分から出席する/招かれざる客であること“不请自来”ともいう ●惊动 jīng-dòng;動詞・騒がす/煩わす/邪魔する類似表現; “让你受惊了” ●打断dǎ-duàn;動詞・打ち切る/遮る

★解説;
●例文1
“对不起,我失陪了。”は「お相手することができなくて、すみません」。

●例文2
“我失迎了,不好意思。”は「お出迎え致しませんで、失礼致しました」。“失迎,失迎,对不起”などとも言う。

●例文3
“我不请自到,打扰了。”は「お邪魔します。呼ばれてもいないのに、勝手に来てしまいましたよ」。ちょっと厚かましい「招かれざる客」の吐く決まり文句。

●例文4
“我惊动你了,不好意思。”は「お騒がせして、すみません」。

●例文5
“对不起,我打断了你的话。”は「話の腰を折ってしまい、どうもすみません」。
●例文6
“我不该问这些,对不起。”は「そういうことをあなたに聞くべきではなかった、どうもすみません」。

後悔・自責の表現
1. 我知错了。
2. 我不小心,栽了个跟头。
3. 我认输了,听你的。
4. 昨天我说的话有些过火了,还望您不要介意。
5. 刚才的话我就收回了,你就当我没说。
6. 我白对你好了。 
7. 我高看你了。
8. 我惯坏了她的脾气。
9. 我不该问你这么多勾起你伤心的事。
10.我不孝,回晚了。
11.我没脸做人。 
12.我对不起列祖列宗。
13.这明明是我的错,却让你扛着。


★語注;
栽跟头 zāi gēn-tou;動詞句・転ぶ/失敗する/恥をさらす ●惯 guàn;動詞・甘やかす ●脾气 pí-qi;名詞・性癖/怒りっぽい気性 ●勾起 gōu qǐ;動詞句・誘発する/呼び起こす ●列祖列宗 liè-zǔ liè-zōng;名詞・代々の先祖 ●扛 káng;動詞・担ぐ/責任を負う/任務を引き受ける

★解説;
●例文
1“我知错了。”は「私が間違っていました/過失を認めます」。

●例文2
“我不小心,栽了个跟头。”は「私は不注意から仕損じてしまいました」。

●例文3
“我认输了,听你的。”は「私の負けです、あなたの言う通りにします」。

●例文4
“昨天我说的话有些过火了,还望您不要介意。”は「昨日私の話はいささか言い過ぎました。気になさらないようお願いします」。

●例文5
“刚才的话我就收回了,你就当我没说。”は「さきほどの私の発言は撤回します、聞かなかったことにしてください」。

●例文6
“我白对你好了。”は「あなたに好くしてあげたけど、水の泡でしたよ」。

●例文7
“我高看你了。”は「君を買いかぶっていたよ」。自分には人を見る眼がなかった、と後悔の弁。

●例文8
“我惯坏了她的脾气。”は「彼女の性癖を甘やかして増長させてしまった。「私に甘やかされて、彼女はひどくわがままになってしまいました」。

●例文9
“我不该问你这么多勾起你伤心的事。”は「あなたが悲しむようなことをあれこれと聞くべきではなかった」。

●例文10
“我不孝,回晚了。”は「私は親不孝者です、帰りが遅すぎて間に合いませんでした」。親元に戻るのが遅れて、死に目に会えなかった子の後悔と慙愧の言葉。

●例文11
“我没脸做人。”は「私は人間として恥ずかしい限りだ。人に合わせる顔がないです」。

●例文12
“我对不起列祖列宗。”は「私は代々の先祖に合わせる顔がありません」。

●例文13
“这明明是我的错,却让你扛着”は「これは明らかに私の過失であるにも拘らず、なんとあなたにその責任を負わせてしまいました」と相手への不仁・不義理を大いに痛恨する表現です。

詫び言・後悔・自責に関する表現はここで一段落とします。次話では悔悟・謝罪の表現をさまざまな実例フレーズを挙げて説明いたします。

(次回に続く)