第65話から連載してきた長丁場の【中国流の説得法】も今話で一旦打ち切りにしたいと思います。代わって今話の後半では、「カネに纏わるチャイナ・ナウ」をお届けします。
 
★経験・眼力を自慢して説得するスタイル
1.您放心吧。我知道该怎么办。
2.这种事我对付得多了,我自有办法。
3.我没看错人, 他不会辜负我的重托和期望。
4.这种人就会虚张声势,我见得多了,没什么了不起。
5.没有第二个人可以取代你。
6.我们拥有他这样的高手,何愁大事不成。
★語注:
●辜负gū-fù;【動詞】(期待などに)背く/(好意などを)無にする
●虚张声势 xū-zhāng shēng-shì; 【成語】虚勢を張る ●高手gāo-shǒu;【名詞】達人/名手
★解説:
▲例文1“您放心吧。我知道该怎么办。”「ご安心ください。私はどうすべきかを心得ていますから」。
▲例文2“这种事我对付得多了,我自有办法。”「私はこうした事例は随分たくさん扱ってきたので、自ずと対処法を心得ています」。
▲例文3“我没看错人, 他不会辜负我的重托和期望。”「私の人を見る目に狂いはありません。彼は私の重い依託と期待を裏切るはずはないのです」。
▲例文4“这种人就会虚张声势,我见得多了,没什么了不起。”「この種の人間をたくさん見てきました。こういう人はただ空威張りするのがうまいだけです。大したことはありません」。
▲例文5“没有第二个人可以取代你。”「あなたは掛け替えのない大切なひとです」。
▲例文6“我们拥有他这样的高手,何愁大事不成。”「我われには彼のような素晴らしい達人が付いています、どうして大事を成し遂げられないと心配する必要などありましょうか?(反語文)」。
 
★予言・「未来図」で説得するスタイル
1. 你早晚会明白的。
2. 半个月后一切自有分晓。
3. 所有的事情都会有明白的一天。
4. 我所做的一切是对还是错,时间会证明的。
5. 我不会让你失望的。
6. 别急!等待的人会有好东西。
7. 一年准备,两年反攻,三年清剿,五年成功。
8. 走着瞧!你会有后悔的一天。
★語注:
●分晓 fēn-xiǎo;【名詞】事の真相/事の結果 “有分晓*见分晓(事の真相・全容が判明する)”
●清剿 qīng-jiǎo;【動詞】反乱を平定する/匪賊を一掃する
★解説:
▲例文1“你早晚会明白的。”は「あなたはいつか分かるはずです」。
▲例文2“半个月后一切自见分晓。”は「半月後に自ずとすべての結果が判明します」。つまり、「(この件の結果は)半月後には、おのずと全貌が誰の目にも明らかになります」。そもそも未来の事柄の多くは予測困難なので、これはもはや一種の予言に聞こえます。特に「半月後」と期日を指定しているので、説得力は強まります。聞く者に対して、「この人はもう結果を予め知っているのでは…」と思い込ませるからです。カリスマ性を漂わせる言い方はそれなりの説得力があります。
▲例文3“所有的事情都会有明白的一天。”「どんな事でもみな真相が明らかになる日が来るものだ」。
▲例文4“我所做的一切是对还是错,时间会证明的。”「私のなしたすべてが正しかったのか、それとも間違っていたのか、それは時間が証明してくれるでしょう」。
▲例文5“我不会让你失望的。”「私はあなたを失望させるはずはありません」。裏を返せば、希望を叶えてあげますと、相手を喜ばせ、期待を抱かせる言い方になっています。相手の信頼と期待を繋ぎ止める言葉遣いは、一種のやんわりとした説得法といえましょう。
▲例文6“别急!等待的人会有好东西。”「慌てないで!待つ人はよいものが手に入りますよ」“最后拿的有福气。(残り物には福がある)”に類似した言い方。
▲例文7“一年准备,两年反攻,三年清剿,五年成功。”は軍事作戦勝利五ヶ年計画のいわば「青写真」。実現への道筋を描いた実に明快なシナリオ。「初年に戦備を整え、二年内に反撃し、三年で反乱軍を平定し、五年で中国統一と復権を実現する」。これは前世紀の実話です──共産党人民軍に大陸を追われた蒋介石敗残軍は台湾に立て籠もり、再起と復権を図ろうと1950年に発表した反攻作戦計画の宣伝スローガン。
四連結の四字熟語には、きっちりとタイム・スケジュールが組み込まれていて、大変わかり易く、それなりに説得力も強いのが特徴。着手から目標達成に至る計画の進捗過程を“准备”、“反攻”、“清剿”、“成功”と段階を区切って漸進的に明言するなど巧みなプロパガンダではあった。ただ肝心の軍事作戦は夢物語に終わり、中国大陸の民心を掴むことは叶わなかった。
 
▲例文8“走着瞧!你会有后悔的一天。”「今に見てなさい!きっと後悔しますよ」。
★カネに纏わるチャイナ・ナウ 例文5題
拝金主義の由来と背景は?
中国社会に見られる拝金主義の風潮について、日本メディアが取り上げて久しいが、最近はあまり目に触れなくなった感じがしています。情況を知ろうと、日本の検索ウェブサイトにキーワードの「拝金主義」を入れて調べてみました。意外にも、日本の拝金主義に関する議論もけっこう盛んなのです。中には「日本は超拝金主義」という主張まで登場している(「日本再興戦略」落合陽一著)。
それはともかく、ここでは中国社会の拝金主義を取り上げてみたい。まず拝金主義に関して両国に共通するのは、いずれも高度経済成長期にこの風潮が社会現象として派生した、ということだと思います。(別の類似例をあげると、近年の来日中国人観光客の「爆買い」問題。なんと、30年以上も前の日本でも、農協がヨーロッパ・アジアなどに続々と送り出した「海外爆買いツアー」が話題になりました。当時の日本人観光客のマナーが現地人からかなり問題視されたようです。★キーワードは「所得倍増」「個人の海外旅行解禁」)
18世紀の産業革命以来、長い歳月にわたって資本主義に鍛えられて成熟した西側先進諸国。その中にあって、日本も明治維新後に早くも近代化の道を歩みだし、この方面ではアジアの優等生と言われるほどすでにベテランの域に達しているといえます。それに比べて、市場経済の運営経験がまだ僅か40年という中国において、あれこれと試行錯誤するのは避けがたいことです。
経済大国になったとはいえ、依然として発展途上国である中国。つまり、社会全体から見れば、中国の近代化がまだ遅れていて、民度も高くないという現実があります。しかし、そのような中国人も市場主義経済社会での生活経験をさらに積んで行けば、自ずとルールに関する学習が深まり、次第にマナーも品位もレベルアップするに違いありません。
今の拝金主義の風潮を理解するには、やはり歴史を少し遡る必要があります。他の発展途上国・地域と違って、改革開放前の中国は、米ソ東西冷戦体制の厳しい情勢の下、米国の対中国包囲網に縛られて準鎖国状態に置かれていました。そうした中で1950年代から約30年間、ソ連型の社会主義システムを採用し、独自の「自力更生」路線を掲げて計画経済システムに基づく国造りを行ってきました。その結果、国家の自主独立と民族の尊厳を固く守り通したばかりでなく、社会底辺の弱者層に対する最低生活の保障、貧富の格差是正などを実現させて国民の期待に応えました。
しかし、硬直した計画経済システムの弊害を蒙り、しまいに「悪平等」と「精神主義」の罠に陥り、国民の生産意欲は低減、生産技術も停滞して農工業生産は低迷し、経済の立ち遅れと社会の大きな混乱を招いてしまった。国民生活全体の底上げは遅々として進まず、経済運営も行き詰まって、アジアの先進諸国・地域の後塵を拝するという苦い経験と教訓を受けてきました。

ところが、1978年から改革開放政策に転換し、漸進的に市場経済システムを導入して、経済の立て直しに成功しました。十億を超える国民もようやく生活物資配給制の耐乏生活から脱出して、よい暮らしができるようになったわけです。中国人にとっては、これはまさに歴史的な大逆転といってよい大きな出来事でした。1840年のアヘン戦争以来、動乱・強食される弱肉・貧困・屈辱の悲哀と苦しみを嘗めてきた中国と中国人に、まさに千載一遇の歴史的チャンスが訪れてきました。
あれから現在までの約30年間、“时间是金钱,速度是生命”を合言葉に、党・官・民が一丸となって国造りに励み、近代化の道を疾走してきました。その結果、1960年代から70年代にかけて起きた内乱で失った10年を取り戻し、経済大国に仲間入りしたばかりでなく、国民生活も飛躍的に改善し、国民が待ち望んだ「*安居乐业」の時代に入った観があります。
しかし、「好事、魔多し」とも言います。長く続いてきた高度経済成長・所得拡大・個人消費旺盛化の過程で、カネ稼ぎ・金儲け・財テク・贅沢が過熱化、無軌道化し、社会にさまざまな問題を引き起こしています。
人々の物欲・金銭欲・裕福欲が異常に膨張し、極端な利己主義、行き過ぎたマネー第一・金儲け至高の風潮が全国的広がりを見せるようになり、同時に発展途上国で多く見られる政府役人の腐敗汚職が中国でも頻発するようになった。こうした拝金主義風潮が蔓延する一因として、金銭に対する執着心が強く、商人気質に富む中国人の性格も影響していると考えられる。しかし、中国人の祖先は子孫に対して金銭財貨に関する優れた知恵と教訓を多く残しています。例えば“*君子爱财,取之有道,用之有度”、“*义利兼顾,先义后利”、 “*不义之财走得快”……などなど。いまこそ、こうした処世の要諦を真剣に学ぶべきではないのか。
こうした情勢の中で、近年登場した習近平政権は、経済政策の面では従来の「量的拡大を重視する高速成長路線」から「高品質を目指す中高速成長路線」への転換に注力しています。同時に、医療・年金・失業・労災など社会保障制度の全面的な拡充に力を入れ、思想道徳教育を推進強化する中で、行き過ぎたマネー至上主義の弊害を拂拭しつつ、貧富の格差縮小・貧困層徹底解消、並びに政府役人の腐敗撲滅を国内政策課題の大きな柱として取り組みを推し進めているところだと思います。
★解説:
“君子爱财,取之有道,用之有度”――現代風な解釈を加えて訳すと、「立派な人は財貨を愛して大切にする。それ故、財貨を正当に取得し、節度ある使い方をするものだ」。裏を返せば、「不正な手段で財貨を手に入れたり、カネにだらしなかったりする人は良識のない卑しい人間だ」。
“义利兼顾,先义后利”――「商いは道義と利益を両天秤にかけて総合判断するべきだ。もし両者が矛盾し合うなら、道義を優先すべきだ」。
“不义之财走得快”――「不正に入手した財貨は逃げ足が速い」。
“安居乐业”――「国民が安心して暮らし、愉快に働く」
では次に、いまの中国の姿をカネの面から映し出したフレーズを取り上げます。
 
1.“现在是抢钱的时代。”
2.“这钱你拿着,只多不少。”
3.“有钱没钱都得回家过年。”
4.“我给不起彩礼,这婚怎么结?”
5.“他妈得了花大钱的病。”
▲例文1“现在是抢钱的时代。”――「現在はマネー争奪戦の時代である。」巨大IT産業アリババ社の総帥馬雲(ジャック・マー)のセリフ。彼はある講演で次のようにも述べている。“机会总是给懂得抓住机会的人。”「チャンスは、いつもそれを掴むことの意味をよく解っている人に与えられるもの」、つまり「チャンスに恵まれる人は、結局チャンスをつかむことの大切さをよく理解している人なのだ」。
目下、中国ではスマホを使った懸賞金争奪ゲームが過熱気味だ。“支付宝(アリペイ)”“微信支付(ウィチャット・ペイ)”などは春節時期を中心に年間さまざまな名目で消費者向けに巨額のお年玉、懸賞金、プレミアム商品券などを大量に放出しており、全国規模で多くのネット市民が参戦、まさに「マネー争奪戦」の様相を呈しています。
▲例文2“这钱你拿着,只多不少。”――「このお金を受け取ってください。充分足りる額にしてありますよ」。“只多不少”は援助金などを相手に渡す時によく使うセリフ。「あなたが必要とする金額より多く、足りないなんてことは絶対ないよ」、「たっぷりな金額だから、安心して受け取りなさい」との意味。“只”は「まぎれもなく(副詞)」と口調を強める働き。文脈全体からみると、人助けする時の爽やかな、ちょっと誇らしい気持ちが滲み出ています。
 
▲例文3 “有钱没钱都得回家过年。”――「カネがあってもなくても、春節はとにかく親元に帰って家族団欒の時を過ごそう」とのメディア発の標語が、今年の春節前に散見された。旧正月時期の帰省にわざわざ「カネ」を絡めている点が意味あり気です。背景として、中国人は“衣锦还乡(故郷に錦を飾る)”観念が根強く、稼ぎがわるい人は、とかく帰郷心が鈍りがちだ。この標語は都会に出て働く若い人たちのそうしたためらいを拂拭するのが狙い。同時に一年ぶりの家族団欒を願う父母たちの気持ちをそのまま代弁しています。
▲例文4“我给不起彩礼,这婚怎么结?”――「私は結納金を工面できません、この結婚、どうすればいいんだ?」。これはある農村出身男性の嘆きの声です。低収入なので、10万元もの結婚費用が重圧になっています。結納金のほか、婚約金、披露宴、新婦の里帰りなどの諸費用が掛かるからです。“给不起”は「金がなくて支払えない」。「動詞+不起」の「不起」は不可能補語/「資力に欠けるので……することができない」例;“买不起”、“租不起”、“赔不起”、“吃不起”…。
▲例文5“他妈得了花大钱的病。”――「彼の母親は治療するのに大金の要る病気に罹りました」。癌や心臓系疾患の治療には高額医療費負担が社会問題になっています。充実してきた中国の医療保険制度ではあるが、社会弱者に対して更なる負担軽減、手当拡充が期待されています。
名言《ニューフェース》“绿水青山就是金山银山”
太陽系の中にあって、豊かな水資源に恵まれたみずみずしい惑星――それが私たちの住む地球です。水・空気・温暖な気候に恵まれた地球の誕生は、宇宙の奇跡といわれます。「山紫水明」の麗しき豊かな山河は、優れた自然環境のシンボルです。陸海空に広がる豊かな大自然は、人類とすべての生物にとって、まさに「金銀」にも勝る貴重な宝物です。この宝物を生かして、人類は生存、繁殖し、農工業生産力を発展させ、優れた人類文明を築き上げてきました。“绿水青山就是金山银山”にはそんなメッセージが込められています。この論断は習近平総書記が2005年に浙江省を視察した際、談話の中で示されたものです。

その一方において、経済発展の代償として、二酸化炭素排出量急増による地球温暖化、異常気象の多発、海洋汚染・酸欠した「死の海」の拡大、海洋資源・海産物の減少、森林破壊、世界乾燥地域の砂漠化拡大、生物種の絶滅加速化、……など、世界各地で由々しき事態が引き起こされています。近年地球の緊急事態を警告する声が世界の科学者たちの間から沸き起こっています。
ひとたび人類の生存基盤である自然生態環境が破壊されれば、人類文明は足元から崩れ、破滅へと向かってしまうかもしれません。この危機を克服するために、国連を中心に世界各国がさまざまな対策と取組みを実行しています。私たちもみんなで力を合わせ、資源節約と環境保護に努力しましょう。

让我们每个人都关爱地球,保护环境!
节约资源,推进节能!减碳减塑,人人有责。
消灾除害,义不容辞。从我做起,从今做起!
( 2019年4月9日 鄭 青榮 )
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