相手に対して、感情がむき出しの時に発する言葉には、その人の関心事、着眼点、発想、本音、さらには国民性までもがパッと顔を見せたりする。そんな視点から、現代中国語口語の中のわりとポピュラーな皮肉言葉、相手を卑しめる言葉を少し集めてみました。
これは、あくまでこの類の中国語が内包する言語文化に探りを入れるためであって、他意はない。ただその種の言葉は、往々にして善悪両面およびグレーゾーンを持つ人間の多面性・複雑性を無視しがちです。ある面のみを切り取っているため、決め付けるような言い方になることが多く、それだけに切り口がすこぶる鋭い。
では、まず“包 bāo”から取り上げます。
“汉堡包 hànbăobāo”、“肉包 ròubāo”は初級で習う食べ物なので、一見して各種の肉まんを連想しがちだが、残念ながらどれも食べられません。(※“汗包 hànbāo”は汗を掻きながら食べる肉まん、“病包 bìngbāo”は食べ過ぎると胃腸病になる肉まんなどと連想しようものなら、まさに奇想天外ですぞ)
ところで、この“△…包”は面白い用語です。たしかに“包”は、“书包 shūbāo(学生鞄)” “手提包 shŏutíbāo(手提げバッグ)”のように、名詞用法としては「包み」、「バッグ」の意味がありますね。そこで、質問をひとつ!人体は何に譬えられますか?ハイ、古代中国人の答えは――「袋」・「包み」。全身を覆う皮膚がまるで一つの袋みたいに、中の筋肉・内臓・骨などを全部まとめて包み込んだ一種の「包み」という面白い発想です。中国人の古来伝統の肉体観と言えそうです。あくまでも外皮と中身の関係性に着目し、中身はいったい何なのかに関心を注ぎ、重要視する。例えば、“那个家伙是个套着人皮的野兽 Nàge jiāhuo shì ge tàozhe rénpí de yěshòu (奴は人間の皮をかぶったケダモノだ)”という言い方からもわかるように、表面は人間の皮で包まれているが、肝心の中身はケダモノだと、非難するスタイルをとっている。
もうお分かりだと思いますが、念のため、よく使われる“△…包”の上記の具体例を少し説明します。包みの中身が病気だらけの人は“病包 bìngbāo”、体内に“泪=涙”をいっぱいに溜め込んでよく泣く人は“泪包 lèibāo”、「いたずら(淘气 táoqì)盛りの子供」は“淘气包 táoqìbāo”、汗かきの人は“汗包hànbāo”。また普通、袋の中が稲や麦のわらで詰まっているものは“草包 căobāo”というが、それが転じて「役立たず」「意気地なし」の喩えとして使われる。なぜでしょうか?正解は人体の中身が骨まで抜かれ、取るにならない「わら」ばかりでは、役に立たない「わら人形」というわけです。
次に中国で熊といえば、国宝級のジャイアントパンダ“大熊猫 dàxióngmāo”をまず連想しがちですが、全土に広く分布し、棲息しているのはむしろ“狗熊 gŏuxióng(ツキノワグマ)”のほうです。ただ中国人は“狗熊”に対しマイナス・イメージを持つ。なぜなら不格好で臆病者だから。山中の熊は、人間の大きな話し声や歌声、楽器の音などを聞くと、怖れをなして逃げ出して行くというではないか。だから、意気地のない軟弱な人を“熊包 xióngbāo”というわけです。表面は人間の皮であっても、中身は意気地なしの熊さん、というわけです。
次に第 2 類として“虫 chóng”の話に入ります。
“△△虫 chóng”というのは、人を皮肉、冗談や軽蔑の気持ちから言う「…な奴」という感じの言葉です。おおかたの中国人が虫を毛嫌いするのは、虫が暮らしに害を及ぼすからです。農作物を食い荒らす“蝗虫 huángchóng(イナゴ、別名“蚂蚱 màzha”)がその最たるもの。生活の場には“蜜蜂 mìfēng”のような“益虫 yìchóng”もいるけど、“苍蝇 cāngying”、“蚊子 wénzi”は伝染病の原因となるし、“蛔虫 huíchóng(回虫)” “钩虫 gōuchóng(鉤虫)”は人の体内に潜入して悪さをする。そこで、人に対して否定的な評価をするとき、軽蔑の意味でその人を「△△虫」と言うわけです。
じつは、中国語の“虫=蟲”は、古代ではなんと、「人類を含む動物全般の通称」と辞書に載っている。その伝統の延長線上でヒトを「△△蟲」と呼べるわけです。決して人間さまを貶めて「虫けら」扱いしているわけではありません。
そう言えば、日本語にも「弱虫」・「泣き虫」「ウジ虫」「金食い虫」などと似たような言葉がありますね。さて、中国語で日常よく使われるものに、瞌睡虫 kēshuì chóng=居眠り屋、应声虫 yìngshēng chóng =イエスマン、懒虫 lăn chóng=ぐうたら、可怜虫 kěliánchóng=哀れな奴、糊涂虫 hútu chóng=間抜け・愚か者などがあります。
(次回に続く/鄭青榮)