「私たちはもともと家族同然に親しい仲 」…情に訴える
社会における対人関係を位置付けるうえで、中国人の考え方には一つの特徴があります。
緊密度・親密度を身近な家族・兄弟姉妹・肉親・親族の関係や、友人関係に擬する発想・志向が強いことです。
さらにこうした発想に基づく相手への呼称や社交的言動が人間関係の距離を縮めて、
相互の緊密化を促すきっかけを作り出しています。
その好例として、見ず知らずの同年代の男性にタバコの火を借りる時に使う
这位大哥,请借个火!zhè wèi dàgē, qĭng jiè ge huǒ !(こちらのお兄さん、ちょっと火を貸してちょうだい)や、
出身が同郷でしかも同姓の人に初めて出会ったときによく使う
我们俩五百年前是一家 wǒmen liă wǔ băi nián qián shì yī jiā(私達ふたりの仲は、五百年前、同じ先祖だったわけですね!)
などが挙げられる。
僅か一言であっという間に500年も時間軸を遡れる発想を「白髪三千丈」式の誇張と取るか、
はたまた、さすが中国人らしい壮大な歴史観と見るかは、説が分かれるところでしょうが、私は後者だと思っている。
なぜなら、中国人は非常に歴史と歴史の連続性を重視する傾向が強いからです。
以下の各例文は“大哥”・“一家”・“一家人(同じ家族/家族同士)”・“姐妹”・“做父亲的”・“朋友”がキーワードです。
いずれも相手と血縁関係を擬えて親近感を醸し出して、相手と同じ身分・立場であることを強調している。
1.这位大哥,请借个火!
2.我们俩五百年前是一家。
3.我们本是一家人。
4.我们不是姐妹,胜似姐妹。
5.你也是做父亲的人,应该体谅他的苦衷。
6.互报姓名,我们这就算认识了,以后是朋友了。
語注 :
●本 běn;【副詞】元来/もともと
●一家人 yī jiā rén;同じ家庭の一員/家族同士
●胜似 shèngsì;【動詞】…より優れる/勝る
●体谅 tǐliàng;【動詞】相手の気持ちを慮る/察する
解説 :
▲例文3 我们本是一家人。wǒmen bĕn shì yījiā rén.
→私たちはもともと家族同然に親しい仲だった
過去の親密な関係を想起させる言い方。現在の好ましくない関係を修復したいとか、正常化すべきだとの意思表示に使われることが多い。
▲例文4 我们不是姐妹,胜似姐妹。wǒmen bù shì jiĕmèi,shèngsì jiĕmèi.
私たちは実の姉妹ではありませんが、実の姉妹にも勝る間柄です
【類似表現】
我们俩不是亲人,胜似亲人 wǒmen liă bù shì qīnrén shèngsì qīnrén.
→私たち二人は肉親ではありませんが、肉親にも勝る間柄です
▲例文5 你也是做父亲的人,应该体谅他的苦衷。nĭ yĕ shì zuò fùqin de rén,yīnggāi tĭliàng tā de kǔzhōng.
→あなたも人の父親として、彼の苦しい胸の内を察してあげなければなりません
つまり、家族を愛し、その健康と安全を守ること、働いて生活収入を手に入れ、子供を養育することなど、
どこの家庭の父親もみな同じ責務を担っている。
だから、父親同士は理解し合い、同情し合うことができるはずだ、と人情に訴えています。
▲例文6 互报姓名,我们这就算认识了。以后是朋友了。hù bào xìngmíng , wǒmen jiù suàn rènshi le, yĭhòu shì péngyou le.
→互いに名を告げ合えば、もう私たちは顔見知りです。これからは友達の間柄になりますね
人間同士は初対面を済ませれば、おのずと友人関係に入ってゆくものだという前向きの意識がこのフレーズに強く表れています。
もともと、人間同士は善隣友好・親睦調和・互助互恵が当たり前という中国伝統の思想の表れです。
冷戦初期の頃、「アジアの兄弟は同胞」・「友情の印は東京——北京」などと民衆に歌われていた。
その70年後の現在、中国から「人類運命共同体」構想が全世界に提唱されているのは、決して偶然ではない。
「四海之内皆兄弟sì hăi zhī nèi jiē xiōngdì」
——数千年も伝えられてきた中国伝統の平和思想が現代によみがえり、開花したものと言えましょう。
(つづく 鄭青榮)