・倒 哪 到底
・并 甚至 偏 宁愿 宁可 宁肯 莫非
・竟 干脆…
社会や世の中の複雑な仕組みや根強い伝統・因習などは、表面からは見えないことも多い。しかし一方で、世界の様相と人間の生活スタイルは科学技術の主導と合理主義の影響拡大の下で、目に見える形で急速な変容を遂げている。こうした新旧の矛盾と摩擦が入り組んだ生存環境の中で世間を渡る私たちの心には、否応なしに世界の矛盾と人生の綾が投影される。
言葉は世に連れ、世は言葉に連れと言うが、世界に不確実性が増し、将来展望がなかなか見えてこない中で、勢いこの社会における人々の言語表現にどのような変化と特徴が表れて来るのか、関心をもって注視したい。
さて、義理人情を重んじる伝統が息づく中国社会で使われる中国語には、やはり義理人情、そして世の常理・道義に纏わる言い回しが非常に多い点が特徴になっている。そんな言い回しの中に、「語気副詞」は不可欠の存在として登場し、要所を締める大切な役目を果たしている。
倒
世の人情・道理や常識に反している、と話し手が思った時の語気。又ある事実が自分の予想に反して、好い側面も具えていると評価したり、事態に意外性を感じたりする時などにも用いられる。下記の例文でもわかる通り、かなり紛らわしい多面相を持つ用語だ。日本語訳も定型化しづらいほど、複雑多岐にわたる。
★その割には逆に/…それなのにかえって/意外にも/…
春天到了,天气倒冷起来了。 | 春になったというのに、天気の方は逆に寒くなり出しているよ。 |
这幅画虽然已经两千多年了 ,色彩倒还鲜艳。 | この絵はすでに二千年余り経っているけれど、その割にはまだ色鮮やかだ。 |
多年的老朋友,他倒跟我客气起来了。 | 彼は長年の友人なのに、私に対して逆に遠慮がましく振舞い出した(とは意外だ)。 |
房间不大,陈设倒挺讲究。 | 部屋は広くないが、中の飾りつけのほうはとても凝っている。(消極的な側面を述べた後、良い側面を取り上げて肯定し、バランスよく評価するスタイルの中で、“倒”は貴重な役目を果たしている) |
哪儿没找遍,你倒在这儿! | あちこちを隈なく捜し回っていたが(どこへ行っても見付からなかった)、君がこんな所にいたとは‼(意外) |
那本小说我看倒是看过,只是内容记不清了。 | あの小説は読むことは読んだが、内容はもう覚えていない。(譲歩[読んだことは認めるとしても…]) |
我倒不反对这么办,只是说要考虑周到一点儿。 | 私は別にこうするのに反対しているわけではなく、ただもう少し周到に考える必要があると言っているだけなんです。(語気の緩め[“倒”を欠くと、語気がやや強くなる…]) |
你倒说句话呀! | (黙ってばかりいないで、)何とか言えよ。(催促・詰問の語気) |
語注:
・哪:どうして…することがありましょうか、いやありえない[反語]<这样的要求,她哪会答应?>
・到底:とうとう・ついに・いったい
・并:決して・べつに[反駁・弁解]<她们俩并不是好朋友>
・甚至:際立った例を挙げると…だ<最近他胖多了,甚至有的人说他变样儿了>
・偏:あくまでも・意地になって・頑として・わざと[相手に逆らう態度]
・宁愿・宁可・宁肯…也不…:…してでも…しない<宁愿走着去,也不去挤公交车>[“走着去”と“挤公交车”の両者について、利害得失を比較、検討した結果、“走着去”を選択])
・还:よく…したね・それでも…のつもりかい[予測外の事態に対する感嘆或いはあざけり・皮肉]<下这么大雨,没想到你还真准时到了><亏你还上过大学呢,连这个字也不认得>
・莫非:…に違いないのでは[推測・懐疑]<最近他总是愁眉苦脸的,莫非是有什么心事吧>まさか…ではなかろう[反語]<莫非我听错了?>
・竟:こともあろうに・なんと・驚いたことに[意外感]<他真大意,竟忘了自己家地址>
・干脆:いっそのこと・思い切って<那个人蛮不讲理,干脆别理他>
(つづく)